さて、紹介をしてきております学童の子どもですが、今回は家庭環境に恵まれず、「子どもらしさを出す」ことを否定してしまった子をご紹介いたします。
さて、紹介をしてきております学童の子どもですが、今回は保護者の方が子どもよりも自分本位であったため、子どもが子どもらしくすることを捨ててしまった子を紹介します。
学童保育と私 5 子どもでいられなかった子
Yくんと出会ったのは2年生の時でした。
その時のYくんは栄養状態が良くなく、餓鬼のようにお腹が出ているものの腕や足は細めで筋力・体力・集中力が低めでした。
性格も短気だったり、暴力的だったりとあまり褒められたものではありませんでした。
警戒されて当然
まずは見てすぐ分かる身体から他の子と違うと気が付きました。
Yくんは話しかけてみると、もちろん初めは警戒されていました。おそらく大人は信じるに値しなかったのでしょう。
私は距離を取って、叩いたり、盗ったり、バカにしたり、ひいきしたりしないと時間をかけて分かってもらえるよう、Yくんに話すのではなくその姿を見せました。
他の子への対応で、平等に悪いことをすれば注意し、ひどければ叱り、良い事をすれば褒めるという基本姿勢をし続けました。…通常の業務ですが。
ある日、Yくんが私の背中に背中を預けて寄りかかって来てくれて、そこから他の子との兼ね合いはありますが、時間が許す限りたくさん話をしました。
彼に与えられたもの
Yくんは保護者に携帯ゲーム機と毎日のご飯代を与えられていました。
保護者は夜遅くまで帰宅しないそうで、Y君はゲームや動画を見放題だと言っていました。また、食事は近くのファーストフードなどで済ませていました。
小さくなったY君の服は保護者の目に入らなかったのでしょうか。
たまに、Y君はわずか8歳の身でありながら包丁とコンロを使いカレーやシチューを作ることもあると聞いていました。ごはんを炊くことは最早説明の必要はないと思います。
保護者・・・
Yくんの保護者は
・シングルの方で恋人がよく変わる(Yくんいわく)
・学童のルールに背くことをして指摘されても謝罪はしない
・パートナーとの間に子どもができても、産む前に「処分」という言葉を使い処置をしたことをYくんに伝えてしまう
・お弁当を作ることをしないため、長期休暇と運動会や遠足にYくんを参加させない(休ませて自宅待機。Y君は参加したいが言えない)
などなど、他人である私もYくんをかわいそうに思ってしまう状態でした。
彼に子どもらしく過ごしてほしい
私の願いは、今、Yくんが保護者の方のために生きるのではなく、Yくんが小学生らしく自分のために生きて欲しいと思いました。
そのため、Yくんに不足している「愛情」を本来保護者の方が与えるものとは質も量も違うかもしれないが、たくさん与えることにしました。
しかし、学童のルールを逸脱することはできません。
服を買い与えたり、お古をYくんだけにあげたり、お弁当を作ってあげたり…そんなことは一切できません。
無力ながらできることを探し、「学童保育」が安心して小学生としていられる場所であることに尽力しました。
具体的にやったことは
・他の子と同じ条件ではあるが、それを守れば職員は味方できることを伝える
・Yくんの顕著な特技を褒め、活躍の場を作る
・Yくん含めできる子たちに自治を認める場を作る
です。
「・他の子と同じ条件ではあるが、それを守れば職員は味方できることを伝える」は、例えば誰かとけんかになった際に、相手が女の子だからYくんの方を強く叱るということはなく平等であると説明し、態度で見せたうえで、どんなに腹が立っても、相手が手を出してきても「自分が手を出さなければ職員が味方できる」という事を伝えました。
その話の後、一度は我慢できずにやり返してしまったYくんですが、学童保育が安心できる環境になったためか、二度目の時はこらえてくれました。
もめた時に当事者両方の話を聞いた時も泣きながら「蹴ってきたけど、自分は手は出さなかった」と言ってくれていて、相手の子は「Yくんが叩いてきたから蹴った」と嘘をついていましたが、当事者以外の子に聞いたらYくんの無実が証明されました。
Yくんがその時に「先生が殴らなかったら味方だって言ってくれたから」と言ってくれて、伝わっていたととても嬉しくて、思い出して我慢したYくんがとても偉くて、私は半泣きで褒めました。
「・Yくんの顕著な特技を褒め、活躍の場を作る」は、Yくんはダンスを見てすぐ覚えて再現できる特技がありました。ダンスを習っている子どもかやるとそれをすぐ覚えて踊れてしまうのです。そして、下級生にも優しく教えている姿を何度も見ました。
幸い、ダンスをやりたいという子どもが多かったので、職員も手が空くときにスペースを作って見ていたら、上手だったりすぐ覚えることで尊敬されたことや教えてと頼りにされることでどんどん明るい顔になっていきました。
「・Yくん含めできる子たちに自治を認める場を作る」は、ちゃんとできる子が多い時に、時間や場所を区切って任せるという事をしました。Yくんも自治を行う側になって、下級生を優しく誘導したりしていました。なんせ乱暴に「自分に従え!」というやり方をする子どももいたので、秋以降はYくんには下級生がそばに来ることも少なくありませんでした。
子どもらしさを取り戻せた!
次第にYくんは子どもっぽいいたずらをしたり、得意げになってみたり、明るくやんちゃなかわいい子どもらしさを取り戻して、些細なお小言を言われるけれど、とても下級生思いの良い子になりました。
そして、その翌年の運動会、私はYくんがダンスも上手にできるし、笑いを取って盛り上げることもできて本人も出たがっているのに、欠席させられてしまうのかと心配でした。
でも、でも!
「先生、運動会来てよね」とはにかんだ笑顔で言われました。まさかと思って聞き返したら、「出るよ!ここで踊るから。すっごい楽しみ!!」と配置表を見せてくれました。
出席できたのです!
Yくんはダンスではセンターの一人でかっこよく見本になっていました。
私はその姿を嬉しすぎて号泣しながら見ていました。保護者の方は見当たりませんでしたが…。Yくんの「(そんなに泣いて)親かよ」のツッコミ、ありがたかったです。
後で学年問わずたくさんの子どもたちに「先生、泣いてたでしょう?」と笑われました。
Yくんはモテないモテないと嘆いていたけど、料理も掃除もできて優しくて面白い事も言えるなんて、モテるまで時間の問題ですよ。小さい子どもにいつも優しく接していたYくんが自分の子どもを可愛がれる日が楽しみです。
□■□学童と私シリーズ□■□
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